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第14回 「寝だめ」の問題点

睡眠は健康維持増進に不可欠なものであり、睡眠不足は脳・血管疾患や生活習慣病、メンタルヘルス不調のリスクを上げるだけでなく、注意力低下や判断力の低下といったことによる作業効率の低下を引き起こし、時には重大な事故を招く場合があります。そのため、睡眠の質・量ともに十分な睡眠の確保をすることは非常に重要です。一般成人においては、適正な睡眠時間は6時間以上が推奨されており、食生活や運動などの生活習慣や寝室の睡眠環境を見直して、睡眠休養感を高めることが望まれます。しかし、令和5年国民健康・栄養調査の結果によると、労働世代(20~59歳)における睡眠時間が6時間未満の人の割合は約35%であり、4割近い人たちは寝不足と言える状況で働いていることになります。

そのような中、休日に睡眠不足を取り戻そうと「寝だめ」を習慣化している人は少なくありません。「寝だめ」は睡眠不足解消につながり、健康にも好影響かというと、実際はそうではなく、寝だめによって起床時刻が大きくずれると体内時計が乱れ、毎週末時差地域への旅行を繰り返すことに類似していることから「社会的時差ぼけ」を引き起こすとされています。慢性的な睡眠不足と社会的時差ぼけによる頻回の体内時計のずれが重なると、生活習慣病リスクやうつ病のリスクを上昇させることが報告されており、寝だめした週末以降の平日に眠気や疲労感を引きずるという報告もあります。また、平日6時間以上寝ている人に限り、休日の1時間程度の寝だめは許容されるとされていますが、2時間以上だと悪影響であるとの報告があります。

休日に寝だめが必要な場合は、平日の睡眠時間が不足していることのサインであるため、まずは平日の睡眠時間確保のために生活リズムを見直す必要があります。その他、寝る前のリラクゼーションや嗜好品のとり方などを見直すことが重要です(表)。

表. 良質な睡眠のためのポイント

● 日中にできるだけ日光を浴びると、体内時計が調節されて入眠しやすくなる
● 寝室にはスマートフォンやタブレット端末を持ち込まず、できるだけ暗くして寝ることが良い睡眠につながる
● 寝室は暑すぎず寒すぎない温度で、就寝の約1~2時間前に入浴し身体を温めてから寝床に入ると入眠しやすくなる
● できるだけ静かな環境で、リラックスできる寝衣・寝具で眠ることが良い睡眠につながる
● 適切な運動習慣を身につけることは、良質な睡眠の確保に役立つ
● しっかり朝食を摂り、就寝直前の夜食を控えると、体内時計が調整され睡眠・覚醒リズムが整う
● 就寝前にリラックスし、無理に寝ようとするのを避け、眠気が訪れてから寝床に入ると入眠しやすくなる
● 規則正しい生活習慣により、日中の活動と夜間の睡眠のメリハリをつけることで睡眠の質が高まる
● カフェインの摂取量は1日400mg(コーヒーを700cc程度)を超えると、夜眠りにくくなる可能性がある
● カフェインの夕方以降の摂取は、夜間の睡眠に影響しやすい
● 晩酌での深酒や、眠るためにお酒を飲むこと(寝酒)は、睡眠の質を悪化させる可能性がある
● 喫煙(紙巻きたばこ、加熱式たばこ等のニコチンを含むもの)は、睡眠の質を悪化させる可能性がある
参考:健康づくりのための睡眠ガイド2023(厚生労働省)
  • (株)安川電機 統括産業医 宮﨑洋介

    専門分野:産業医学、産業保健
    資格:産業衛生専門医・指導医、社会医学系指導医、労働衛生コンサルタント(保健衛生)

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