notice

第14回:心肺蘇生法

はじめに

皆さんは、目の前で人が倒れる状況に遭遇したことがあるでしょうか。多くの場合、このような状況では現場が混乱し、対応が円滑に進まないことが少なくありません。特に、倒れた人に意識や呼吸がなければ、なおさらパニックになることがあります。しかし、心停止から1分ごとに救命率は7~10%下がり、救急車を要請してから到着するまでの平均到着時間は10.3分と言われているため、救急車が到着するまでの救命措置が大きく人の命を左右します。いざというときに対応できるよう、一人でも多くの人が心肺蘇生法を習得しておくことが必要です。今回は、一般市民向けの心肺蘇生法を紹介します。

図の出典:日本蘇生協議会 蘇生ガイドライン2020(一部改変)

心肺蘇生のポイント

・傷病者に反応が無い場合、もしくは反応の有無の判断に迷う場合、救助者は119番通報し、通信司令員の指示を仰ぐ

 

・傷病者に反応がみられず、普段通りの呼吸が無い、あるいは呼吸状態の判断に迷う場合は、躊躇せず胸骨圧迫(心臓マッサージ)を開始する

 

・胸骨圧迫は、強く!早く!絶え間なく!
強く:胸が5cm沈むように圧迫
早く:1分間に100-120回のテンポ
絶え間なく:中断は最小限に

心肺蘇生法の流れ

  • (1)安全確認

    まず救助者自身の安全確保が大切です。車の往来や煙の有無など、周囲の安全を確認します。

  • (2)反応の確認

    傷病者の肩をたたきながら大声でよびかけます。何らかの応答やしぐさがなければ「反応なし」と判断します。反応の有無で判断に迷う場合は、「反応なし」と判断します。

  • (3)119番通報

    大声で叫んで注意を喚起し、周囲の人に119番通報とAEDの手配を依頼します。周囲に人がいなければ自分で119番通報を行い、近くにAEDがあることがわかっていれば持ってきます。

  • (4)呼吸の確認と心停止の判断

    傷病者に反応が無いときは、胸と腹部の動きに注目して呼吸を確認します。呼吸が無い、呼吸はあるが普段通りではない、判断に迷う場合は心停止と判断してただちに胸骨圧迫を開始します。

  • (5)胸骨圧迫

    訓練の有無に関わらず、救助者は胸骨圧迫を実施することが求められます。

    ①開始手順
    傷病者を仰向けにして、救助者は傷病者の横にひざまずきます。

    ②胸骨圧迫の部位
    胸の真ん中を目安にします。

    ③胸骨圧迫の深さ、テンポ、中断
    胸が5cm沈むように圧迫します。圧迫のテンポは1分間あたり100~120回です。胸骨圧迫は絶え間なく行うことが大切ですので、中断は最小限にとどめることが求められます。

    ④救助者の交代
    胸骨圧迫は救助者の体力を非常に消耗します。また、救助者の疲労により胸骨圧迫の質も低下します。救助者が複数いる場合は、1~2分ごと胸骨圧迫の役割を交代します。

  • (6)人工呼吸

    ①胸骨圧迫のみの心肺蘇生
    訓練を受けていない救助者は人工呼吸を実施する必要はありません。訓練をうけたことがある救助者であっても、技術がなかったり人工呼吸を行う意思がなければ実施する必要はありません。胸骨圧迫を優先させることが重要です。

    ②気道確保と人工呼吸
    人工呼吸を実施する場合、まずは気道を確保します。その際、片手で傷病者の額を押さえながら、もう一方の手の指先をあごの先端に当てて持ち上げます。胸骨圧迫と人工呼吸は30:2の割合で繰り返し実施します。人工呼吸は、1回1秒かけて吹き込むことが目安で、吹き込んだ息が漏れないように傷病者の鼻をつまんで実施します。

    ③感染防護具
    できる限り感染防護具を使用します。感染リスクがある場合や人工呼吸が躊躇される場合は人工呼吸を省略して胸骨圧迫を実施します。

  • (7)AED(電気ショック)

    AEDが到着したら電源をいれて(蓋を開けると電源が入る機種もある)、電極パッドを装着し、音声ガイドに従います。AEDのボタンを押すときは「みんな離れて」と声を出し、身振りも使って離れるように指示します。AEDによる電気ショック後、直ちに心肺蘇生を再開します。

  • (8)心肺蘇生の継続

    救急車が到着して救急隊へ引き継ぐまで心肺蘇生を続けます。明らかに普段通りの呼吸や目的のある仕草が出現した場合は、心拍が再開したと判断して心肺蘇生を一旦中止してよいですが、AEDを装着している場合は電源を切らず、電極パッドを貼ったままにしておきます。

最後に

誰かが倒れたときに救助に当たることは非常に勇気がいることです。しかし、その勇気で助かる命があります。日本赤十字社が心肺蘇生とAEDの使い方の動画を公開していますので、ぜひ参考にしてください。一人でも多くの人がもしもの時に手を差しのべてくれる社会となることが期待されます。
 
日本赤十字社「動画で見る一次救命処置」

  • (株)安川電機 統括産業医 宮﨑洋介

    専門分野:産業医学、産業保健
    資格:産業衛生専門医・指導医、社会医学系指導医、労働衛生コンサルタント(保健衛生)

CONTENTS